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1・101~120 幕僚会議(3)総大将アガメムノーン

103:当然アガメムノーンはいきり立つ。感情や精神をもつと考えられている横隔膜が黒くなるほど怒っているというのはホメーロス特有の表現だ。

106:アガメムノーンはカルカースに「今まで私には良い予言を言ったことが無い」と言っている。かつてどのような事があったものかこの「イーリアス」には何の記述も無い。アカイア軍のトロイア遠征出発時のエピソード、エウリピデス作「アウリスのイーピゲネイア」などを思い出させるが、何しろこれは後世の物語であるから違うのかもしれない。ただアガメムノーンも、カルカースに良い感情を持っていなかったことが推察される。占いは本人にとって幸いなことも不幸なこともある。たいがい不幸なことを言い当てられる方が、記憶に残り占術師を恨みもするからであろう。

116:前行でどれだけ自分がクリューセーイスを気に入ってるか述べたてたものの、渋々ながらもここで返却に応じるところはさすがに大勢の頂点に立つ大王である。カルカースの神託とやらはいけ好かないが、軍全体の長として適切な判断を下した。

118:アガメムノーンの要求は彼からみたら、正当なものである。後述でのアキレウスもそうだが、彼らは自分の立場や評価に見合う待遇や褒美を受けるのを望む。

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1・68~100 幕僚会議(2)予言者カルカース

72:占いはアポローン神の司る能力の一つである。

76:カルカースがアキレウスに自分を護る約束を要求する。それほど恐ろしい出来事が起きる予感に、聴衆はますます惹きつけられるようになっていく。

78:誰を怒らせるか名前こそ出してはいないが、聴衆には既に明白なことである。そしてこれからその絶対権力者を激怒せしめるという予告がされる。

85:アキレウスがカルカースの求めに応じて身を護る約束をしたのは、安請け合いでは決して無い。「真実を明かす(嘘を言わない)こと」は彼にとって正しい道理であるからだ。こういう気質は彼の父から彼の息子までに受け継がれている、高尚なる人間性だ。

86:アポローンによって占術を与えられたカルカースに対し、アキレウスがアポローンに誓った。

91:アキレウスはアガメムノーン王を「アカイア軍中最も優れる者であると自ら公言する」人物と評した。それが真実かどうかは別として、アキレウスの抱く彼への悪感情が垣間見える。

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1・53~67 幕僚会議(1)アキレウスの発言

前行まではほんの前置き。ここからこそがこの物語の本当のオープニングである。

55:ヘーレーがアキレウスに人々を会議の場へ召集する気を起こさせた。その役はアガメムノーンやオデュッセウスでも良かった筈だろうが、このストーリーのアカイア軍初場面であり、主人公としての彼の登場場面に相応しい。

61:主語がpolemos(戦争)とloimos(疫病)と二つなのに、動詞damai「滅ぼす」が単数であるが、以下のことが考えられるようである。(1)二語で一つの意味(抽象的に一つの概念)として考えるから。(2)主語のどちらかを形容詞に訳す(「戦のような疫病」とかになるのか?)。(3)より近くの語polemos(teは本来前につくので)にひかれて、動詞が単数になった。(4)kai loimos Achaiousに、動詞damaiをもうひとつ補う。

62:「予言者か神官か夢見の者に訊ねよう」と言っているが、カルカース以外にそういう者が軍中にいたとも思えないが。始めから人物の名を出さないようにしているようである。

64:アキレウスは疫病の原因がアポローンであることを知っている。夢がゼウスから生じる(63行目)のと同様に疫病といったらアポローンの仕業に決まっているのだろう。

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1・8~52 事の原因

14:クリューセースが嘆願に赴く際の格好が記されている。本来頭に巻く髪紐を嘆願のため、黄金の王笏の上に付けてきた。髪紐はアポローンの後ろ盾のあることを強調している。

39:39~42行は、神への祈りの典型的形式である。(1)神の名を出して呼びかける (2)自らが行った業績など、要請の根拠を掲げる (3)請願。 5書114行にも同様の形をした祈りがある。

42:ここのdakruaはCunliffeの辞書では、dakuruon「嘆き」の複数対格ということだが、辞書には、dakru「涙」とdakuruon「嘆き」と、二語載っていて、どちらも複数対格は同じdakruaとなる。この二語の違いは、どちらかがaの部分にディガンマが付くというもののようである。

47:アポローンが憤慨を覚えつつオリュンポスからやって来る描写「夜の如くに行く」は、なにやら恐ろしげな雰囲気が漂う。豊かな表現力だ。

48:「アポローンは船から離れたところに座って」と訳されるが、「座って」弓を射たという意味ではなく、弓を射るためにそこに「位置取りをした」と解釈するらしい。

51:アポローンの放った矢とは人間たちの世界では疫病となって兵たちの命を奪った。61行目でloimos(疫病)と明記されるが、既に39行目にアポローンのことをsmintheus(鼠[疫病を意味する]の神)とクリューセースが呼んでいるところから暗示されている。

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1・1~7 物語の始まりです

冒頭の7行目までは「イーリアス」の主題の提示であると、多くの研究者たちが述べております。

「アキレウスの怒り」~この物語の発端は、まさにこの怒りである。主人公アキレウスは怒りの他にも様々な激しい感情を露わにする。彼の心の苦しみがどれほどのものであるか知れば、この一見子供じみてみえる主人公を理解できるだろう。

1:thea(女神)とはムーサである。第二書の船軍のカタログの直前(2・484)ではムーサイを詩人は名指しで呼んでいる。「女神よ、歌え」といいつつ、詩人はこの物語を語る。詩人の口を借りて女神が語るのか、詩人の才能もムーサイの支配下にあるというのだろう。このように詩人がムーサイに語りかける箇所は他にもある。

2:oulomenen(呪われた怒り)が引き起こした悲惨な事態が説明される。2~4行までの3つの動詞の主語はいずれもこの禍々しい怒りである。

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