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1・148~187 幕僚会議(6)泥沼化する遣り取り

148:アキレウスはそれまでの自分の働きからも、人並み(或いはそれ以上)に扱われて当然と思っていただけに、アガメムノーンの侮辱的言葉に怒りだした。アガメムノーンのみならず、アキレウスにとっても名誉が傷つけられるということは社会的地位のかかった重大な事柄である。「あんたなんかに誰が従うというのか?」とは彼がアガメムノーンの売り言葉を買ってしまった瞬間だ。

152:そも、アキレウスはトロイア方に恨みや復讐心があって、戦をしに来たのではない。遠征軍の目的は、メネラーオスの妻ヘレネーを連れ戻すことであり、アキレウスがそれに参加したのは、多分に功名心のためであろう。それだけにここへ来て報われず全てが徒労になるのであれば、即ち彼にとって無意味なことであるばかりか、メネラーオス・アガメムノーンの兄弟にとって好都合なだけである。

163:いよいよアキレウスのアガメムノーンに対するこれまでの不満が露になってきた。「かつてあんたによって等しい価値の褒美をもらったことは無かった」「いつも戦いの多くを引き受けてきたのは私の手なのに、あんたの方がずっと沢山褒美を持ち帰った」「私は疲れ果てつつ、わずかな褒美を大事に持ち帰っているのに、その褒美を奪い取ると脅した」と、こんなところだろうか。これはアキレウスが以前から不満に思っていたことのようだ。だが今までは、それなりにアガメムノーンに敬意を払っていたため我慢していたのだろうが、彼をkyunowpa(恥知らずな奴よ)と毒づいてからは溜まった不満を吐き出すようになる。

169:アキレウスは遂に故郷へ帰った方がましだとまで言い出した。これは数日経っても結局実行されることはなかった。アキレウスにとってこの脅しは、自己の評価を周囲に問う、最後の手段であった。

172:アガメムノーンも勝手に逃げて行けとアキレウスを突き放し、口論は泥沼化する。アガメムノーンはアキレウスのことを以下のように指摘している。「ゼウスが決めた王のうちでお前は最も憎たらしいものだ(自分の地位もゼウスが決めている。その自分に敬意を払っていない。そういう者は最も憎まれるのだ)」「お前にとっていつでも戦いや戦争だの争いは好ましいものである」「強くてもその強さは神が与えたものだ」特に最後の言葉はアキレウス自身の実力を否認しているようにも聞こえるが、これは当時のギリシア人たちの一般的宗教的な考え方のようである。ともかくも、アキレウスとアガメムノーンの確執は完全にこじれてしまった。

179:止めとばかりにアガメムノーンはアキレウスに、自分がどれほど優っているか周囲に知らしめるためにもブリーセーイスを奪い取ることを宣告する。もうこうなると人間関係は最悪である。アガメムノーンのアキレウスにとる態度は高圧的で、即ち91行目のアキレウスが語った、彼の評の裏づけともいえる。

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