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1・188~222 幕僚会議(7)女神アテーナー出現

188:やはり高い地位権力を振りかざすアガメムノーン相手では、抵抗するにも限界があった。このような場合、人は従うか逆らうかという究極の選択に迫られる。特にアキレウスはアカイア軍中でもかなり若い年齢であり、怒りを抑えがたかったであろう。その激しい憤りのうちで思い悩むさまが克明に描かれている。人々を扇動してアガメムノーンを殺してしまうかどうかと悩むのは性急な気もするが、これほどの権力者に歯向かう場合、中途半端なことでは済まされないのであろう。それにしても「人々を扇動する」とは自分ひとりが非難を浴びないようにとの考えからか、それともこの場で自分に賛同する人間がいるかどうか確かめたかったのか。
anasteeseienを「扇動する」と読み違えてましたので訂正します。「(人々を)立たせようとする」であり、アキレウスはその場の人たちを立たせて追い払い、一人、アガメムノーンに襲いかかろうと考えたのでした。

193:どうするか考え悩んでいるその間中、剣を鞘から抜きかけている。動詞elketo(抜く)が未完了過去である。詩人は、アキレウスの心の葛藤を巧みに動作で表現してみせた。彼の心がアガメムノーンに歯向かう方向に動いているわけではないと思われる。

195:アキレウスの衝動を止めるため、ヘーレーの使いでアテーナーがやって来た。この二人の女神はかなり仲が良いらしく、同じ意向をもち、ヘーレーが求めるとアテーナーは異存なく即座にそれを実行する。おそらくイーリアスよりは後世の作であろうパリスの審判で、勝者のアプロディーテーがけしかけてこの戦争となり、それを恨んだ二神がアカイア軍に加担しているという筋書きは、これにつじつまが合う。

197:アテーナーはアキレウスのすぐ後ろに出現し、彼の髪を掴んで注意を惹いた。アカイア人は「髪を長く垂らした」という形容詞もあるので長髪であったろうが、23書141行にあるように、アキレウスは無事帰郷の願をかけて長く伸ばしていた。

200:アテーナーは恐ろしげに光る瞳を持っている。頭を使う戦略の女神である彼女を象徴するのがフクロウであり、そこからもフクロウが知恵の神と同一視されるようになったといわれている。この恐ろしく光る瞳の出現はアキレウスに大きな驚きを与え、彼の毒気を抜いて、易々と彼を懐柔させた。

201:pteroenta(翼のある)はepea(言葉)の形容詞として、随所に使われる。言葉は口から発せられ、耳に届く。目には見えないが、言葉によって人は人と心を通じ合わせ、人を動かすからなんだそうだ。そんな言葉にギリシア人は不思議な力を感じる。

204:この行で語られた「アガメムノーンはその傲慢により近々命を落とすだろう」というアキレウスの言葉は、仮定法の形をとった警告であると注釈にあった。

213「三倍もの多くの立派な贈り物が寄越されるであろう」。実際19書で送られた品々がブリーセーイスの三倍の価値であったかは不明だが、倍ではなく三倍であるところに<とても沢山>だという価値観があるようだ。今後も「3」という数字に注目しよう。

220:oude apithese(応じないことは無く)、つまり素直に応じたということである。アキレウスは女神アテーナーの言葉に従い、抜きかけた剣を鞘に収めた。

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