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1・247~303 幕僚会議(9)雄弁なる老王ネストール

247:第一書からネストールを軍中の仲裁役・相談役として印象付ける箇所である。彼は紹介のとおり誰より年嵩が上であり、饒舌である。彼の得意とする説得力は「イーリアス」のストーリーの転換部分で非常に重要な役割を担う。

250:行頭のtowi(指示代名詞男性単数与格)は、「彼の目(立場)から見れば」のような判断者・観察者の与格と解する。

251:trafen「育って」、gignomai「生まれた」とは順番が逆のように感じるが、レトリックの一つで後のものが先に来る”プロテロン ヒュステロン”である。また、「一世代目が育って二世代目が生まれた」という考え方もあるらしい。

254「大きな憂いがアカイアの地へとやって来た」とネストールは言った。ここはトロイア国であるが、アカイア軍が陣取ったところはアカイアであるという認識のようだ。訂正します。これは「アカイアの地」という言い方で、アキレウスとアガメムノーンの諍い=アカイア国の内紛と捉えており、大変なことになった、と言っているわけである。

257:動詞puthoiato「~を聞く」は、属格のsfowinとmarnamenoiinをとって「あなた方両人が争うのを聞いたら」とするが、直接目的語としてtade panta「これら全てのことを」もとる。聞いた相手・人を属格で表し、聞いた内容・事柄を対格で表す。

271:oxfordのテキストだと、否定辞ouがどこにかかるのか読みにくい。272行のmacheoitoにかけるしか読みようが無い。Willcockのテキストでは272行の一語目townの直後と、epicthonioiの直後にそれぞれカンマが振ってあり、あらかじめmacheoitoが関係代名詞hoi以下の文と切り離されてあり、そのように読むのが容易になっている。(pharrのテキストも同様)

275:ここでネストールによって述べられた、アキレウス、アガメムノーン両人の役割と評価というものが、一番明確で実質的あろう。アカイア軍にとって両人とも不可欠な存在のため、ネストールの勧めどおり争いを避けるのが賢明であった。このように物語内では度々、最悪の事態を回避する策が提示されるにも拘らず、それは避けられないものであるかのように無視される。歯がゆくも思うが、それがまさにドラマを生む。今に至る基本的なフィクション小説の手法が既にここにある。

292:アキレウスはアガメムノーンの話を遮って発言する。291行までのアガメムノーンの言葉がアキレウスへの中傷に終始しているのに対し、アキレウスは今後の自らの態度を明らかにした。

298:アテーナーの忠告もあるので、誰とも争わないことをアキレウスは明らかにするが、それはブリーセーイスに関してだけで、その他の品について侵害する者は容赦しないと言いわたす。ブリーセーイスを奪われる以外の、これ以上の侮辱は阻止する構えである。

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