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1・531~567 ヘーレーの憂慮

533:ゼウスが館に戻ると、諸神こぞってゼウスを出迎えに席を立った。諸神の席そしてゼウスの座った席というものは、オリュンポスで神々の酒宴や会議がよく執り行われる席である。Zeus de eon pros dowmaというところから、そこはゼウスの館の中にあるようだ。同じオリュンポス山でその付近に館を持ち住まっている神もいるが、別の場所に居を持つ神々もいる。誰がそうであるかなど明確ではないが、例えばヘーレー、ヘーパイストス、アプロディーテーなどはオリュンポスに住み、ハーデースやテティスなどはそれぞれ自分の居住場所を持つ。

536:ゼウスとテティスが密談していたのに、ヘーレーは目ざとく気づく。諸神が敬うゼウスに向かい、妻のヘーレーはそのことを開口一番咎め立てる。彼女は特に味方をしているアカイア軍のためにも、このように夫の動向に常に目を光らせている。何しろ、最大の力を持つ女神である自分の思い通りにならないのは、この世でゼウスだけなのだから。そういう意味ではゼウスにとっても、一番の障害は妻ヘーレーであろう。

545:545行mutous複数に対し、547行hon単数、548行ton単数、549行hon単数、550行tauta複数と、同じことを指す代名詞が複数になったり単数になったりしているが、545行mutousは、547行hon(聞いていい話)と、549行hon(聞いてはいけない話)に別れる。二つのものを統合してmutous、tautaと言っている。

555:ヘーレーがゼウスを監視する理由が挙げられている。彼女はひいきしているアカイア軍の敗北を一番に危惧している。イーリアス上で、ヘーレーは全てアカイア軍の勝利を目的として行動している。

562:ヘーレーに向かい、ゼウスはその不遜な態度を戒める。567行のゼウスが持つaaptous cheiras(抵抗できない力で)とは、8書17行以降に詳しい記述あり。ヘーレーが555~559行で述べた事柄について、ゼウスはこの場で認めはしなかったが、15書75行などでヘーレーに対し明らかにしている。

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1・488~530 テティスの請願

490:反復過去powleomai「(習慣的に)行く」などの動詞を使うことにより、アキレウスが会議や戦場に行かない日々が、アガメムノーンと口論した日より続いていることを表している。ゼウスがオリュンポスに戻ってくる日が次の段落でやって来る。

498:テティスがオリュンポスの頂にやって来た時、ゼウスは他の神々から離れたところに一人でいた。これは都合よくテティスが目的を遂げるというストーリー運びのための設定であるとともに、Kirk(Cambridge Univ)の注釈ではゼウスの座っていたオリュンポスの頂は彼の聖域であり、他の神々と一線を画して優位を示しているという。

500:テティスはゼウスの前にひざまずき、左手で膝を掴み、右手で顎を掴んだ。これは懇願者のポーズである。

514:頷きによる返答の仕方にも決まりがある。承諾・肯定は下方へのうなづき、また、否定は上方への頷きによって示す。(現代のギリシアでも通じるとか?) neuow頭を俯ける=kataneuow(下に)うなずく(請け負う)、≠ananeuow首を後ろにする(拒絶・拒否する)

515:返答を渋り無言となってしまったゼウスに、テティスは自分を蔑んでいるのかどうかはっきり答えるよう迫る。テティスとしても愛する息子の名誉がかかっているのだから懸命である。ゼウスとしてはテティスの望みを退けるつもりはないが、それがアカイア軍に肩入れしている妻ヘーレーの怒りをかうものであることが悩みなのだ。恐れるものの何もないはずのゼウスが、妻にだけは手こずっているらしいところが、人間くさいギリシアの神の親しみを覚える面である。今でもギリシアでは恐妻家が多いと聞く。

526:所有形容詞一人称中性単数対格hemon「私のもの」を受けるべき名詞が無い。代名詞のような用法で詳しくは次行のho ti以下で説明される(Thomas D. Seymourの注釈参照)。単にtekmowr「証拠」を意味するのではなく、もっと抽象的に約束を「私のもの」と言っている。

528:ゼウスがテティスに約束の証として頷いてみせると、オリュンポス山が大きく揺すぶられた。黒い眉毛は黒雲のイメージ、髪がサラサラと流れるのは稲妻のイメージ。ゼウスが雷雲の神であることを示す表現である。

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